国際課税の基礎-5-みなし外国税額控除とは

はじめに

こんにちは、東京都港区の税理士法人インテグリティ、公認会計士・税理士の佐藤です。

 

大企業だけでなく、 中小企業やベンチャー企業が海外進出することはめずらしくない時代になりました。海外進出、つまり国境を超えて経済取引を行うときの税金は、日本と相手国のどちらに払うことになるのでしょうか。国際課税とは、国際取引という2国間以上にかかわる課税のことをいいます。

国際課税の基礎として、今回はみなし外国税額控除について説明したいと思います。

 

なお、国際課税についての大枠をザックリと理解してもらうことを目的にしているので、用語の使い方や正確性などよりも分かりやすさを重視していることをご了承ください。
実際の適用にあたっては国際課税に詳しい税理士にご確認ください。

 

 

外国税額控除

日本の居住者や内国法人(日本国内に本店または主たる事務所がある法人)が稼いだ所得(もうけ)については、その所得が日本で稼いだものであろうと、外国で稼いだものであろうと、日本において税金がかかります。これを全世界所得課税といいます。

一方、日本の内国法人が外国で稼いだ所得については、日本だけでなく外国でも税金がかかります。

そうなると、同じ所得に対して2つの国で税金がかかってしまうという二重課税の問題が出てきます。

この二重課税を取り除くために外国税額控除という制度があります。

 

 

みなし外国税額控除とは

外国税額控除にはいくつかの種類があり、そのうちのひとつとして、みなし外国税額控除があります。

みなし外国税額控除とは、開発途上国との租税条約において、その開発途上国の税額について減免されている法人税額等がある場合には、その減免された法人税額等は、開発途上国において納付したものとみなして外国税額控除を適用することができる制度をいいます。

もう少し簡単にいうと、
外国税額控除は外国に実際に納めた外国税額を日本の税額から差し引くことができる制度ですが、
みなし外国税額控除では、外国に納めるはずの税金を安くしてもらったため実際には納めていない外国税額についても、日本の税額から差し引いてもいいですよ、という制度なのです。

このみなし外国税額控除はタックス・スペアリング・クレジット(Tax sparing credit)とも呼ばれています。

 

 

みなし外国税額控除の目的

開発途上国では、自国の経済発展や開発促進を目的に、自国に先進国の企業を呼ぶための手段として、外国企業の税金を安くするなどの税制上の減免や優遇の措置を設けることがあります。

例えば、日本法人の甲社が税金の優遇措置があるA国に支店を設けて進出したとします。甲社は日本国内で稼いだ所得とA国で稼いだ所得の合計である全世界所得について、日本の税率で税金がかかります。こうなるとせっかくA国で税金の優遇措置を受けたのに、その恩恵を受けることができません。

 

具体的な数字で見てみましょう。

 

みなし外国税額控除の制度がない場合

 

【 前提条件 】

法人税率

    • 日本 40%
    • A国 20% ( 外国企業は優遇措置として税率が40%→20%になっている )
    • B国 40% ( 外国企業への優遇措置は特にない )

甲社の稼ぎ

A国に進出した場合

    • 日本での稼ぎ ゼロ
    • A国での稼ぎ 100

B国に進出した場合

    • 日本での稼ぎ ゼロ
    • B国での稼ぎ 100

 

【 A国に進出した場合の税金の総額 】

A国で納めた税金 = 100 × 20% = 20
日本で納める税金 = 100 × 40% - 20 ( 直接外国税額控除 ) = 20
税金の合計 = 20 + 20 = 40

 

【 B国に進出した場合の税金の総額 】

B国で納めた税金 = 100 × 40% = 40
日本で納める税金 = 100 × 40% - 40 ( 直接外国税額控除 ) = 0
税金の合計 = 40 + 0 = 40

 

外国企業への優遇措置があるA国に進出しても、外国企業への優遇措置がないB国に進出しても、甲社が納める税金の額は変わりません。これではせっかく税金の優遇措置があるA国に進出しても税金のメリットはありませんね。

 

このように、せっかくの外国企業への税金の優遇措置を考えないで、全世界所得に税金をかけようとすると、開発途上国で減った税金の額だけ、日本で納める税金が増えてしまって、優遇措置の効果がなくなってしまいます。これでは開発途上国は外国企業を誘致できません。

 

そこで、日本と開発途上国との間の租税条約においては、みなし外国税額控除制度の適用を認める場合があります。

 

みなし外国税額控除の制度がある場合

 

【 前提条件 】

法人税率

    • 日本 40%
    • A国 20% ( 外国企業は優遇措置として税率が 40% → 20% になっている )
    • B国 40% ( 外国企業への優遇措置は特にない )

甲社の稼ぎ

A国に進出した場合

    • 日本での稼ぎ ゼロ
    • A国での稼ぎ 100

B国に進出した場合

    • 日本での稼ぎ ゼロ
    • B国での稼ぎ 100

 

【 A国に進出した場合の税金の総額 】

A国で納めた税金 = 100 × 20% = 20
日本で納める税金 = 100 × 40% - 40 ( 直接外国税額控除 20 + みなし外国税額控除 20 ) = 0
税金の合計 = 20 + 0 = 20

 

【 B国に進出した場合の税金の総額 】

B国で納めた税金 = 100 × 40% = 40
日本で納める税金 = 100 × 40% - 40 ( 直接外国税額控除 ) = 0
税金の合計 = 40 + 0 = 40

 

みなし外国税額控除の制度を適用できると、税金の優遇措置があるA国に進出した方が、甲社が納める税金の額は少なくなります。甲社はめでたくA国の税金の優遇措置の効果を享受することができました。

 

 

おわりに

国際課税につきましては、下のトピックも参照ください。

 

国際課税は、大半の税理士が苦手としている分野です。「国際課税」という名称だけは聞いたことがあるけど中身については全然分からない、という税理士も珍しくありません。当税理士法人においても、基本的な国際課税には対応しておりますが、複雑な問題については大手会計事務所を紹介させていただいております。

 

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東京都港区の税理士法人インテグリティ、公認会計士・税理士の佐藤でした。